期待が大きかっただけに、正直言ってガッカリした。
当時は大きなスケールで描かれた映画だったんだろうが、今の感覚からすると小スケールのTVドラマ程度にしか感じられなかった。
2009年に、小林薫と香取慎吾主演でTV映画としてリメイクされたのを観た。
実は、これはあまり期待してなかった。
雨の日の暇つぶし程度の気持ちで観だしたところ、これが案外おもしろい。
骨太の作品になってるんだから驚いた。
昭和30年頃の日本は、戦後の復興を目指して日本中が上昇志向だった。
しかし、関西地方では電力事情が不十分なために復興があまり進んでいなかった。
停電日や電気の使用制限があって、産業や市民生活がおぼつかない状況だったという。
そんな時代背景が、今回の映画では丁寧に描かれてる。
物語の根幹をなすものとしていくつもの場面に絡んできている。
日本のため、国民のためという錦の御旗を立てる電力会社や建築会社。
命をかけ、誇りをかけてトンネルの貫通に挑もうとする職人。
両者の意地が真っ向からぶつかり合う作品にも仕上がっている。
裕次郎の映画では、彼のカッコよさを全面に打ち出すことが至上命令だったんだろうし、明らかにセット撮影だと分かるトンネル工事場面もガッカリの要素だ。
TV版では、登場人物の心の葛藤や自然の驚異が、余すところなく描かれている。
なにしろ4時間にもおよぶ映画だ。
時間的な余裕が違う。
トンネル撮影もどこかの廃坑を利用して行われたようでリアル感が一杯だった。
灼熱地獄だった黒部川第三ダム。
その工事で、父を失った職人頭を香取慎吾が演じている。
黒四ダムの工事に行かせたくない母親を泉ピン子。
印象に残るなかなか渋い演技だった。
黒四ダムの工事は、冬は零下20度にもなる黒部の奥深い渓谷が舞台だ。
人と物資を運ぶトンネル工事が完成されなければ、ダム工事自体が始められない。
トンネル工事の職人が諦めてしまっては、すべての工事がストップする。
そんな切迫した状況の中でのトンネル工事だったことをはじめって知った。
破砕帯という軟弱地層に伏流水が流れ込み、わずか50mも前に進めない難工事だったことも分かった。
黒四ダムには30年くらい前に行ったが、その時はダムの上に建つ慰霊碑の意味も分からなかった。
今回の視聴で、もう一度ゆっくり歩いてみたいと思った。